製造業者を狙ったサイバー攻撃が増加しています。製造業者がサイバー攻撃を受けると、知的財産の漏洩やサプライチェーンの混乱などさまざまなリスクが発生します。
しかし、年々高度化するサイバー攻撃を完全に防ぐことは不可能です。現代においてはサイバー攻撃の予防だけでなく、被害を最小限に抑える対策も欠かせません。本記事では、製造業者を狙ったサイバー攻撃が増加している理由や主要なサイバー攻撃の種類、効果的な対策について見ていきます。
製造業者を対象とするサイバー攻撃が増加する理由は何ですか?
最近、製造業者を狙ったサイバー攻撃が増加しています。有名な事例として、トヨタ自動車のサプライヤーがサイバー攻撃を受け、トヨタ自動車の14工場が停止した事件がありました。製造業者に対するサイバー攻撃が増加する理由の一つとして、IoTデバイスを挙げることができます。
IoTを導入することは常にインターネットと接続された状態になることを意味します。センサーや産業用制御システム、接続されたデバイスなどのIoTデバイスは貴重なデータと制御機能を提供する一方で、サイバー犯罪者にとっては攻撃対象の拡大を意味します。サイバー犯罪者はIoTデバイスの脆弱性を利用して不正アクセスや機密情報の窃取、運用中断を行います。
また、IoTデバイスを導入しなくても、製造業者はサイバー攻撃に対する細心の注意が不可欠です。なぜなら、製造業者は貴重な知的財産や機密情報を保有している傾向があるからです。サイバー犯罪者は製造業者の貴重な情報を盗み出し、高額の身代金要求やダークウェブでの高額売却を行います。
製造業者が知っておくべきサイバー攻撃の主要なタイプ
マルウェア
マルウェアとは、コンピューターシステムを混乱させたり損害を与えたり不正にアクセスしたりすることを目的とする悪意のあるソフトウェアです。製造業では産業用制御システム(ICS)やサプライチェーン管理ソフトウェア、その他重要なインフラが悪意のあるコードの標的になる可能性があります。悪意のあるコードの感染経路は、電子メールの添付ファイルや感染したウェブサイト、悪意のあるダウンロードなどさまざまです。
フィッシング詐欺
フィッシング詐欺とは、個人をだましてログイン情報や金銭的な情報など機密情報を開示させる手法です。最近では、従業員からログイン情報を盗み取り企業のシステムやネットワーク、機密情報にアクセスするケースが増えています。フィッシング詐欺の主な特徴は以下のとおりです。
● 偽装:攻撃者は電子メールやウェブサイトまたは電話を通じて信頼できる企業や機関などに偽装します。
● 緊急性:フィッシングメールは緊急性を煽り、悪意のあるリンクのクリックや感染した添付ファイルの開封、個人情報の提供などを促進します。
● ソーシャルエンジニアリング:心理的操作を利用してユーザーを欺き、信頼を得るために馴染みのあるブランド名や緊急性の高い要求を利用します。
DDoS攻撃
DDoS(Distributed Denial of Service:サービス拒否)攻撃は、標的とされたシステムやネットワーク、ウェブサイトを大量のトラフィックで圧倒し、正規ユーザーがアクセスできない状態にすることを目的とする攻撃です。 DDoS攻撃の主な特徴は以下のとおりです。
● ボットネット:危険なデバイスのネットワーク(ボットネット)を利用して標的への大量のトラフィックを生成する
● トラフィック増幅:ネットワークプロトコルの脆弱性やサーバー設定のエラーなどを利用して攻撃トラフィックを増幅
● サービス中断:標的となるリソースを圧倒してシステムやウェブサイトの正常な機能を停止させ、サービス中断や業務運営への影響を引き起こす
● レイヤーアプローチ:アプリケーションレイヤーやトランスポートレイヤー、ネットワークインフラなどネットワークスタックの様々な層を対象に影響を最大化
ゼロデイ攻撃
ゼロデイ攻撃はソフトウェアやハードウェアの脆弱性を狙った攻撃です。脆弱性修正パッチが提供される前の日(0日目)に攻撃を行うため、ゼロデイ(0日)攻撃と呼ばれます。 ゼロデイ攻撃の主な特徴は以下のとおりです。
● 脆弱性の悪用:攻撃者は組織やベンダーに気づかれる前にソフトウェアの脆弱性を発見し、攻撃を行う。
● 防御が限定的:未知の脆弱性を狙うため、従来のセキュリティ対策やウイルス対策ではゼロデイ攻撃の検知や防止に効果がない可能性がある。
● ステルス性:不正アクセスやデータの盗難などの被害を察知せずに行う可能性が高い。
ランサムウェア
ランサムウェアはコンピューターシステムやネットワークに侵入してデータを暗号化し、アクセスを制限する悪意のあるソフトウェアの一種です。攻撃者は復号鍵を代償に高額の身代金を要求します。一般に、フィッシングメールや悪質なダウンロード、ソフトウェアの脆弱性を突き攻撃が行われます。最近では、身代金要求だけでなく、暗号化されたデータの公開を脅迫する ‘ダブルエクスポージャー型ランサムウェア’ の増加も見られます。また、身代金を支払ってもデータが復号される保証がなく、機密情報がダークウェブで売買されるリスクもあります。さらに、ダークウェブに機密情報が漏洩することを契機に、新たな攻撃リスクにつながることもあります。このような事態から、ランサムウェア対策はもちろん、被害を最小限に抑えるための定期的なダークウェブ監視も必須です。
製造業の機密情報がダークウェブに漏洩されることから起こるリスク
では、製造業がサイバー攻撃の被害を受けて機密情報がダークウェブに漏洩した場合、どのようなリスクが発生するでしょうか?
知的財産の漏洩
企業秘密や特許設計、研究開発データなど製造業の機密情報がダークウェブに漏洩すると、競合他社に知的財産が露呈されたり悪意のある第三者に売買されるなどのリスクが生じます。 知的財産の漏洩がもたらす結果には、以下のものがあります。
● 競争優位性の喪失:漏洩された知的財産は競合他社が製品模倣および価格引き下げ、競争力獲得に利用できる
● 財務上の否定的影響:知的財産の漏洩は市場シェアの低下や売上減少、価格戦略の変更などをもたらし、財務的損失を引き起こす
● イノベーションの妨げ:独自の設計や研究開発データが漏洩した場合、技術的優位性の維持や新製品開発が困難となり、長期的な成長展望に影響を
サプライチェーンの混乱
ダークウェブは製造業企業のサプライチェーンを破壊しようとする攻撃者の情報源となります。 たとえば、サプライチェーン管理に関連した機密情報が漏洩すると、次のようなリスクが発生する可能性があります。
● ベンダーとの関係悪化:サプライヤーとの契約条件や機密情報が漏洩することで信頼が損なわれ、パートナー関係が揺らぎます。
● 類似品増加:製造情報の漏洩により模倣企業が正規の模倣品を製造・販売できるようになり、ブランドの希釈と収益損失、最終ユーザーへの被害
● 業務妨害:サプライチェーン情報を悪用する攻撃者は重要な部品や物流、輸送プロセスを標的とし、製造運営を混乱させて遅延、生産停止、製品品質の低下などを引き起こす
顧客の信頼低下
製造業の機密情報がダークウェブに漏洩すると、顧客の信頼と信用を傷つけます。 その影響には、以下のものがあります。
● データプライバシーへの懸念:顧客は製造業者が保有する個人情報の安全性とプライバシーを心配し、データを保護する会社の能力に対する信頼を失う。
● ビジネス上の関係や契約がリスクにさらされる:特に機密性の高い業界の顧客は、データ漏洩や機密保持のリスクが高いと判断した場合、製造業者との関係を再検討したり契約を中止したりします。
製造業の効果的なサイバーセキュリティ対策
ここまで見てきたように、製造業はサイバー攻撃の標的となりやすく、被害を受けた場合の損失も大きい。したがって、適切な対策が不可欠です。以下では、製造業の効果的なサイバーセキュリティ対策を解説します。
ネットワークセキュリティの強化
製造業のネットワークを不正アクセスや内部からの脅威から保護することは非常に重要です。ファイアウォールや侵入検知システム、安全なリモートアクセス制御などのネットワークセキュリティ